植物
環境の分野での植物の分類
ハワイ諸島は地球上で最も孤立した(大陸から離れた)島々です。ポリネシア人が渡来するまでは無人島でした。コウモリとアザラシ以外の哺乳動物はいませんでした。そのような環境での生態系は大変珍しく不思議なことで一杯です。現在のハワイでは人為的に持ち込まれた植物が大変多いです。
在来種(native species)とは、もともと自生している植物のことで、ポリネシア人の渡来以前に、海流とともに、風とともに、または渡り鳥とともに渡ってきたものです。 在来種(native species)を更にendemicとindigenousという2つのタイプに分けることができます。
ENDEMIC(エンデミック): A species that is endemic is unique to a defined place or region (in other words only found in that place or region) and not naturally found anywhere else. Usually the term is applied to a discrete geographical unit, often an island or island group, but sometimes a country, habitat type, or other defined area or zone.
ENDEMIC(エンデミック)である種は、限定された場所や地域に特有な種(その場所や地域にしかない)で、その他の場所には棲息しない種のことです。ある島や諸島などに限定されたもの、ある国や、ある環境や、ある地域に限定されたものに当てはまります。ハワイでは「ハワイ諸島にしか棲息していない種」のことをENDEMICと呼びます。つまりハワイ固有種です。その中には「ハワイ諸島内の特定の狭域にしか棲息していない種」もあります。
INDIGENOUS(インディジネス): A species that is indigenous to somewhere may be native to other locations as well.
INDIGENOUS(インディジネス)である種は、ある場所の在来種であるが、他の場所にも自生しているという種です。たとえば限定されたある一部の場所でしか見られないのではなく、熱帯域に広く分布しているというような広域分布種のことです。ハワイでは「ハワイ諸島に自生しているが、ハワイ諸島以外にも自生している種」のことをINDIGENOUSと呼びます。つまり在来種ではあるが、ハワイ固有種(ハワイだけにある種)ではない種です。
外来種(introduced species, alien species, exotic species)とは、人が観賞用、商業目的などで他地域から持ち込んだ植物です。人為的にハワイにある植物です。意図的であっても、偶発的であっても外来種と呼びます。野生化して増えた外来種のことを帰化種(naturalized species)といいます。生態系への影響が大きい外来種のことを侵入種(invasive species)と呼びます。
ハワイではポリネシア人によって持ち込まれた種や、西洋人の渡来後に持ち込まれた種がありますが、ポリネシア人によって持ち込まれたものはpolynesian introductionと呼び、他の外来種と区別します。canoe plantとも呼びます。ポリネシア人はカヌーで渡ってきたからです。
このブログは、ハワイ島でエコツアーを案内するHAWAII NATURE EXPLORERSの環境保護への取り組みのひとつです。緑豊かなヒロよりアロハをこめて発信しています。
フラの神の祭壇に捧げられた植物、イエイエについて
イエイエ(‘ie’ie, Freycinetia arborea)は、標高300m?1500mの雨林などに生育するタコノキ科ツルアダン属の常緑のつる性低木です。マルケサス諸島、ソシエテ諸島、オーストラル諸島、クック諸島にもある種です。
周りに樹木がなければ、地面を這うように生えます(匍匐状)が、樹木があれば、樹木に絡み付いて成長します。大きめの根が、樹木に巻きついて伸び、茎から出る多く気根が茎を固定します。岩上に着生することもあります。
枝先にサーモン系オレンジ色の包葉をつけ、その中に3?4本の小さな花が集まった肉穂花序をつけます。元々はハワイ固有の鳥たちが受粉していましたが、絶滅してしまったため、現在は日本からの移入種であるメジロがその役目を果たしているようです。
イエイエの実は、絶滅してしまったであろうというオーウーというミツスイや、自然界では絶滅してしまったアララー(ハワイガラス)が好きな食べ物でもあります。これらの鳥たちは、イエイエを受粉していた種でもあります。
昔のハワイの人たちは、イエイエの気根で籠や魚を捕るための仕掛けなどを編んでいました。ヘルメットや、鳥の羽で装飾されたヘルメットや神々の偶像の骨組みも、この気根で作ったものでした。
イエイエは、ラウカ・イエイエという女神を象徴する植物として、オレナ(ウコン)の香をつけた黄色いカパで包んだフラの女神ラカを象徴するラマの木、神クカオヒア・ラカを象徴するオーヒア・レフア、女神カポを象徴するハラペペ、マイレ4姉妹を象徴するマイレ、火山の女神ペレの妹であり、フラダンサーの守護神である女神ヒイアカを象徴するパラパライというシダと共に、フラの女神ラカに献堂されたハラウ・フラという神聖な建物の中のクアフ(祭壇)に捧げられました。
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ハワイ固有のデイゴ、ウィリウィリについて
デイゴ属の植物(エリスリナ)は世界中の熱帯地方や温暖地に115種あるそうです。ハワイでは熱帯アジア産や南米産のものなど90種以上が植物園や公園などに植えられているそうですが、帰化はしていないようです。
ハワイ固有のデイゴは一種(Erythrina sandwicensis)だけで、ハワイ語ではウィリウィリといいます。
島の風下側の標高600mぐらいまでの乾燥地帯や溶岩地帯にあるドライフォーレスト(乾燥林)に自生しています。15mぐらいの高さになる木で、幹や枝がオレンジ色系の赤い色をしていて、幹には縦筋の凹凸があり、イボのような短い刺が少しあります。軽い木なので、昔はカヌーのアウトリガー(横に張り出した浮き木)やサーフボードや投網の浮きとして利用されました。
葉は大きな幅の広い葉を3枚つける三出複葉で、花は枝先に咲き、花序は12?18cmで、花の色はオレンジ、黄色、白、または薄緑です。開花期は暑い時期(kau wela)の終わりから雨が多い時期(ho‘oilo)が始まる前にかけて(大体9月ごろから11月ごろまで)で、その時期には落葉しています。
さやが捩れて曲がっていることがウィリウィリというハワイ語名の由来です。さやの中の実は赤やオレンジ色で、その実でレイを作ります。
ハワイのドライフォーレスト(乾燥林)は乾燥地帯にあるとてもデリケートな生態系です。非常に減少してしまった環境で、約10%しか残っていません。現在わずかに残っているドライフォーレスト(乾燥林)には、外来種の草や木がたくさん繁殖してしまっています。またリゾート開発や住宅地開発で益々減少しています。
ウィリウィリに害を及ぼす虫も増えています。最近ヒメコバチ(Quadrastichus erythrinae)がウィリウィリの葉に瘤をつくり、花芽の育成を阻害してしまうという問題が多くなっています。 またアフリカ原産のマイマイガ(Specularius impressithorax)がウィリウィリの種を食べてしまいます。
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ウィリウィリに関する諺
http://hawaii4u2c.blog63.fc2.com/blog-entry-14.html
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カウアイ島の固有種、イリアウについて
イリアウ(Wilkesia gymnoxiphium)は、カウアイ島固有のキク科の多年草で、ハワイ島マウナ・ケアやマウイ島のハレアカラーのアーヒナヒナ(ギンケンソウ)の近類種です。
「太平洋のグランドキャニオン」とも呼ばれるワイメア渓谷の標高425mから1100mの乾燥地域や中湿地域の尾根や開けた場所で、年間降水量が80?200cmの場所に分布しています。
1?5mぐらいの高さに成長します。開花期は5月から7月で、花序は30?100cmで、40?350ぐらいのクリーム色の花を咲かせます。自らの花粉が雌しべの柱頭に付着しても結実しません(自家不和合性)。花が咲いた後には枯れてしまいます。
人間が持ち込み繁殖したヤギによる食害が問題です。
マウイ島ハレアカラーのギンケンソウ(シルバーソード)について
マウイ島ハレアカラー(標高3055m)のギンケンソウ(Argyroxiphium sandwicense ssp. macrocephalum)は、標高2100mから3055mに分布しています。ハワイ語ではアーヒナヒナと呼びます。人間が足でけって転がしたり、持ち帰ったり、またヤギやウシに食べられてしまったために、1920年代には非常に減少してしまいました。
しかし、1935年には個体数は約4000、1971年には43262、1979?80年には35000、1982年には47640、1991年には64800、現在では1935年の約16倍増えています。保護されるようになってからは、素晴らしい回復率です。
開花は5月ごろから10月ごろですが、年によって花を咲かせる個体数の数が大幅に異なります。1970年には全く咲かなかったそうだし、フィリピンのピナツボ火山が噴火した1991年には6632の固体が花を咲かせたそうです。
ギンケンソウや他の固有植物を守るために、ハレアカラーの山頂部の周りにフェンスを取り付ける作業が1976年に始まり、1986年に完了したそうです。現在ではフェンスで取り囲んだ山頂部にはヤギは一匹もいません。
このブログ記事を書いた時点では、山頂部以外も含めるとフェンスを張り巡らす作業は約85%完了していて、これまでに500万ドル以上費やしたそうで、その努力の甲斐があって、50年間ぐらい見かけなかったカヤツリグサの仲間や他の1年草も再び山頂部に生えるようになったそうです。
ヤギによる被害はなくなりましが、まだ別の問題が残っています。帰化植物のムレイン、または別名ビロウドモウズイカ(Verbascum thapsus)やファウンテングラス(Pennisetum setaceum)が繁殖しないように努力しているそうです。
現在、一番大きな問題は、ギンケンソウを受粉してくれる昆虫の幼虫を食べてしまうアルゼンチンアリ(Iridomyrmex humilis)だそうで、他家受粉をする(同じ個体の花の間で、雄しべの花粉が雌しべの柱頭に付着することが自家受粉。違った個体の雌しべの柱頭に付着することが他家受粉。)ギンケンソウにとっては強敵なのです。
ハレアカラー国立公園では、このような努力の結果、ギンケンソウの固体数が増えただけではなく、以前よりも広範囲に生育するようになりました。
ギンケンソウ属(Argyoxiphiumアルギロクシフィウム)はハワイにしかない属で、マウイ島とハワイ島のみに存在します。この属には計5種ありますが、そのうち1種は絶滅してしまいました。
- Argyroxiphium caliginis – ʻEke Silversword
- Argyroxiphium grayanum – Greensword
- Argyroxiphium kauense – Mauna Loa or Kaʻū Silversword
- Argyroxiphium sandwicense – Silversword
- Argyroxiphium sandwicense ssp. sandwicense – Mauna Kea Silversword
- Argyroxiphium sandwicense ssp. macrocephalum – Haleakalā Silversword
- Argyroxiphium virescens – East Maui Greensword (絶滅、ハレアカラーのギンケンソウとの勾配種が残っているそうです。)
マウイ島ハレアカラーのギンケンソウは、ハワイ島マウナ・ケアのギンケンソウ(Argyroxiphium sandwicense ssp. sandwicense)と亜種レベルで異なります。残念ながらハワイ島マウナ・ケアのギンケンソウはとても減少してしまっています。
ハワイ島マウナ・ケア山のギンケンソウ(シルバーソード)について
ハワイ島マウナ・ケア(標高4205m)のギンケンソウ(Argyroxiphium sandwicense ssp. sandwicense)はキク科(Astranceae)のMadiinae亜連のハワイ固有植物で、元来、標高2600mから3800mの乾燥した高地に生息する高山植物です。
名前は葉の色や形が由来で、属名Argyroxiphium(アルギロクシフィウム)はギリシャ語の銀を意味するargyrosと、剣を意味するxiphosが語源です。英語ではSiversword(銀の剣を意味するシルバーソード)、ハワイ語名ではAhinahina(灰色を意味するアーヒナヒナ)です。
ハワイ島マウナ・ケアのギンケンソウとマウイ島ハレアカラーのギンケンソウ(Argyroxiphium sandwicense ssp. macrocephalum)は亜種のレベルで異なります。
開花期は夏です。発芽後開花するまで5年から50年までの歳月を要します。1つの固体がヒマワリを小さくしたような花を最大で500個ぐらい咲かせます。花は花茎の下の方から順々に開き、約3?4週間咲いています。自家不和合性 (self incompatibility、同じ花の花粉が柱頭についても、花粉管の発芽、伸張、受精が生理的に妨げられる仕組み)で、同じ年にその他の固体が花を咲かせていないと子孫を残せません。いったん開花、結実すると株全体が枯れて一生を終える一巡植物(monocarpic)です。でも、この写真の固体のように複数に枝分かれする性質のものもあり、その場合は花を咲かせた部分だけが枯れて、主軸とそこから出たそのたの枝はそのまま残ります。マウナ・ケアでは種から栽培されたものに、この遺伝子を持っているものが多いようです。
ギンケンソウの祖先にあたる植物は、地中海性気候帯で植物固有種が多いカリフォルニア植物相地域(California Floristic Province)のキク科植物Tarweedのある種で、その種子がハワイに到達して、標高が高い乾燥地帯や湿地帯など様々な環境に合わせて、多様な進化を遂げました。 ギンケンソウ属(Argyroxiphium)の5種と、その類似種であるドゥバウティア属(Dubautia)の23種と、ウィルケシア属(Wilkesia)の2種は、単一の先祖が多様なニッチに適応していった適応放散(adaptive radiation)の注目すべきすばらしい例です。
1986年3月21日に米国内務省・魚類野生動物局(US Fish and Wildlife Service)の絶滅危惧種リストに加わりました。現在、野生の個体は36ぐらいしか残っていません。絶滅寸前となってしまった主な原因は、野ヤギや野ヒツジです。人間がハワイに持ち込んだ草食動物に食べられてしまったのです。
これまでに採集した種から繁殖させた固体を3000以上植えて、絶滅しないように努力しています。2005年には9年ぶりに野生の個体が花を咲かせ、保護増殖のため、その固体から10万個以上の種を集めることができたそうです。
しかし、本来ギンケンソウの生息地であるはずの場所は、ハワイ州政府の管轄下ですが、野ヤギや野ヒツジがいますし、マレイン(Verbascum thapsus、和名:ビロウドモウズイカ)という帰化植物が広範囲に繁殖しているので、マウイ島ハレアカラー国立公園のような徹底した努力(フェンスを張ったり、帰化植物をコントロールすることなど)が必要です。